パソコン修理中

執筆用に使っていたノートパソコンが壊れてしまいました。
書斎として使っている部屋にはデスクトップもあるのですが、長時間子どもから目を離したくないもので、書斎に引きこもることにはちょっと消極なのです。

現在公開している作品を今後も引き続き公開しようと決めた後では、今まで以上に、自分の作品のつたなさが気になってしかたありません。
なんといいますか、作品たちが恨めしい目でわたしを見ているのですね。
「あなたのせいで、わたしたちは恥をかき続けています」と。

これまでも、そうした恨みの言葉は聞こえていましたが、それでも、作者たるわたしがずっと側にいたわけで、なにかと目をかけてあげることもできましたし、少なくとも一緒に恥ずかしい思いをしてあげることはできたのですが、今後はそういうわけにもいかないのです。

そんなわけで、少しでも彼らの恥を取り除いてあげたいと、小さな修正を重ねていたのですが、執筆用パソコンの不調によって、その作業も少しお休みをしなくてはなりません。

ほらまた、我が子たちが恨めしい目で見ています。
「あなたのせいで、ぼくたちは、こんなにも恥ずかしい思いをしていますよ」

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改稿いたしました。

月の言葉」と「小さなアリ大きなわたし」を改稿いたしました。

どちらも、なんとなくぼやかしていた部分を、少しはっきりと言葉にしたという感じ。もともと、色々と想像してもらいたくて、核心に近いところをごまかしてしまう癖があるのです。それがいいか悪いかは別として、まあ、そんなところを意識して直してみました。読みやすくはなったと思います。

ずっと気になっていて、手を入れてない作品もあります。大幅な手直しは考えていませんが、これからも、ちょくちょく直していこうと思っています。

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サイト閉鎖→凍結について。

 こんばんは。ある朝思い立って、こんなくだらないサイトは早々にに閉鎖してしまうぞと息巻いてみたものの、麻生様のお言葉にあっさりと懐柔され、サイト凍結を決意いたしました、優柔不断なうひょでございます。

 まずはご報告。
 当初閉鎖を予定しておりましたが、予定は未定。
 「UN ART-FICIAL STORIES」は12月25日をもって凍結することに決定しました。

 そんなわけで、「サイト閉鎖」改め「サイト凍結」なわけですが、そもそもなぜ「閉鎖」などを思い立ったかというと、実はその辺りの思考の筋道が自分でも容易に再現できないのです。ただとにかく、自分の作品に思いを馳せたときに「これじゃいかん!」という憤りがおきてきまして、その怒りのはけ口がサイト閉鎖という形で具体化したのです。俗なイメージで恐縮ですが、陶芸家が気に入らない作品をガチャーンとするあれをやってみたかったという、つまるところは、ただそれだけなのかもしれません。

 とはいえ、そうして破棄対象として目をつけた作品であっても、好きといっていただける方がおりますと、やはり壊してしまうのは忍びないもの。結局のところ、ろくな作品が書けない原因は自分にあるのであって、生まれてきた作品に罪はないといいますか、そんな欠陥だらけの作品たちにも、作者としてはやはり愛情を感じているところなのです。サイトのサブタイトルにもありますが、アイノナイワケジャナイ、ってことなのです。もっとも、ここで心を鬼にして、一息にガチャーンとやれるくらいの厳しさがないと、物書きとして大成はできないのかもしれませんが、それもまあ、わたしらしいということで自分納得してしまいました。

 話は変わりますが、わたしの書いた作品の中に、「香港造花」ってのがありまして、実はこの作品などは、わたしのいいわけを作品化したものなんです。小説のふりをした小説もどきを書き散らかしてごめんなさい。でも、そんな「もどき」でも少しは楽しめますよね、なんていう。初めて小説を書き始めたときから、この「香港造花」のイメージが頭にありましたので、とにかく不完全な作品を公開しているのだという後ろめたさは、ずっと背負っていました。

 ただ、そんな不完全な作品の中でも、それなりに納得のできるものもあります。「雪の山の熊と人」などは、構造的な欠陥を意識しながらも、終始、思ったとおりに書くことのできた、ほとんど唯一の作品です。欠陥も含めて、思い通りにできた作品なので、この作品などはとても愛おしいですね。どんな批判を受けても、その批判すらも嬉しいといいますか、そんなダメなところも含めてこの作品なんですなんて、そう胸を張って答えることができてしまうくらい。アマチュアの作品なのですから、多少の欠点があってもいいと思うのです。ただ、自分で納得さえできれば、わたしは満足できるのでしょう。

 サイトを凍結してどうするんだ、ということですが、とりあえずなにかを書いて日々を過ごそうと思っております。ただ、今の延長ではなく、新しい形で創作ができるように、とにもかくにも、小説を書くということを、もう一度見つめ直したいですね。で、そのためにも、まず自分を見つめ直し、自分と世界の関わりを見つめ直したい。要するに、小説を書く以前の土台をしっかりと固めて、一から出直そうと思うのです。

 なにも趣味で書いているのだからそんなに力まないでも、と思われる方もいらっしゃいますでしょうし、自分でもそう思います。でも、そうしないと気がすまないのですから、そこまでがわたしの趣味の範疇ということで、適当な妥協点が見つかるまでは、ここはもう、もがいてみるしかありません。

 小説は書き続けます。だから、いつかどこかで、皆さまと再会することもあるでしょう。身勝手は承知ですが、またお会いできれば幸いとも思っております。そんなわけで、突然の凍結をお詫びすると同時に、このような「ひなびた」サイトに通っていただけました読者さまには、たっぷりの感謝を申し上げたいと思うのです。

 ごめんなさい。

 ありがとう。

 そして、さよならよりもきっぱりと、じゃあね、じゃあね。

 なんて。

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ゲーマーズ第2話 初稿

 ゲーマーズ第2話の初稿の抜粋です。
 興味ある方は、比べてみてください。
 てか、かなり変わってますね。事件の流れは一緒ですが、異世界の設定は別物です。

 なお、この初稿は、2007年9月の執筆でした。
 当初は一話30枚程度で展開しようとしていたので、今よりもスピーディーです。

 テキ……シュウ?
 その意味は、とっさに理解できるものではなかった。
 地震かと思った地響きは、ますます唸りを増し、叫び声と、息づかいと、金属のこすれあう音がそこに混じった。右手の方に、いくつもの明かりが揺らめいているのがみえる。それが、近づいていた。
 ビュオッ。
 空気を裂く音がした。と、足下に矢がピンと突き刺さり、獲物を逃した無念さにブルブルと身を震わせていた。同時にいくつかの悲鳴が夜気をつんざいた。
 それが戦闘の始まりであった。
 重たい鉄の塊のぶつかり合う音がして、意味を成さない叫び声が嵐のように渦巻いた。
「怯むな! 勇者をおまもりするのだ!」
 ヨムラの声が闇に響く。
 進はアタとシーザに促されるままに走り、ストーンサークルのある低い丘を降りた。石を踏み、自分が靴を履いていないことに気がついた。
「止まってはいけません!」
 未だ進の腕を持っていた方の戦士――アタが叫んだ。
「足がっ」
 進は情けない声をあげた。足の裏がジクジクと痛んだ。血が出ているに違いなかった。
 雄叫びと悲鳴と馬のいななきが混じりあっていた。気がつけば、遠くにあった光は、ついぞ先ほどまで自分たちのいた辺りにまで侵入していた。そしてそれは、しばらくまごまごとストーンサークルの周囲をうろついた後で、確実にこちらへと迫っていた。
「こっちだ! いたぞ!」
 不吉な声が響いた。 
「くそっ! 見つかったか!」
 シーザが唸り、立ち止まった。
「ここはオレが引き受けた。先に行け!」
 そういってスラリと腰の剣を抜く。その身長に合わせて短いそれは、どこかオモチャの剣のようであった。チラリと振り返った進の目に、雄叫びをあげて剣を構える姿が見えた。
 いつしか空気には、血の臭いがただよっていた。

(中略)

 森を出れば正面に、太陽の光を背景に黒く石柱が浮かび上がっていた。何ごともなく、昨夜の場所に戻ることができたようである。ひとまず胸をなで下ろす進。だが、そこに待っていたのは、痛ましい現実であった。
 引き倒されたテントや荷車からは燻る煙が上がっていた。焦げた臭いが鼻を刺す。そして、血とすえた肉の匂い。
 進らが近づくと、バッと死肉をあさっていた鳥たちが空に舞った。近くの梢に止まり、物欲しそうに下を見つめている。
 そこには、パックリと腹を割かれた死体が、虚ろに空を見つめていた。それだけではない。あたりには、いくつもの死体が無造作に投げ出されている。武器を持っている死体ばかりではない。怯えたように丸まったままの子どもの死体もあった。その子を抱く母親もまた冷たい死体となっている。
 それら死体は、ほとんどが《狗頭人(ノムルティ)》のものであったが、武装した《蜥蜴人(レプラティ)》の死体もいくつかあった。昨夜はその姿を確認することもできなかったが、黒光りする鱗で全身を覆われ、顔はカマキリを思わせるものだった。
 進はその場にうずくまり吐いた。昨夜から何も食べていないおかげで、吐瀉物は少ない。
 アタは野営の跡地を走り回り、生存者がいないか確認をしていた。
「いきましょう」
 やがて進の元にやってきたアタは短くいった。
「行くって……どこへ?」
「皆がやられたわけではありません。遺体はざっと二十ほど。後は捕まったか、あるいは逃げ落ちたのでしょう。無事な者がいれば、こんなときのための集合場所が決めてあります。さあ、行きましょう」
 アタが進の手をとって引き上げた。
「やだよ。行きたくないよ!」
 進はその手を振り払って叫んだ。
「帰してくれ。オレのもとの世界に。こんなところ、もうたくさんだ。好きなだけ勝手に殺し合えばいいじゃないか。オレには関係ないんだ。こんなとこに、いたくないよ!」
「わたしには、あなたを元の世界に戻す力はありません。その術を知るのは長のみです。ここには長の遺体はありませんでした。長に会いにいかなければなりません。どうか、いましばらくのご辛抱を」
 アタは頭を下げた。
 アタは歩き始め、進は無言でその後に続いた。進たちが距離を取るとすぐに、鳥たちが饗宴の舞台へと舞い降りる。
「みんなを、あのままにしておいていいの?」
 進はいった。
「弔いの暇はありません。神託を受けた日より、我ら一同、屍をさらす覚悟はできています」
 アタの声に苦渋の色が混じっていた。
「再び森を行きましょう。街道は危険です。急げば日が沈む前にたどり着くことができるでしょう」

 

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ゲーマーズ第2話掲載です。

前回の第一話掲載から、およそ1か月。
わたし的には、驚くようなスピードでの連載です。

そんなわけで、「第2話 夢みた異世界」を掲載しました。

主人公が、ようやっと異世界へと到着です。
なんとも展開の遅い物語ですが、このまったりとしたリズムがわたしの好みのようだと最近気がつきました。なので、これは仕様です。苦情は受け付けません。
そんなわけで、異世界召喚なファンタジーな割になんとも地味な物語ですが、お気に召していただければ幸いです。

ではでは。

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挿絵追加しました。

さっそく、「ゲーマーズ」の第一話に挿絵を追加してみました。
こんな絵も追加しています。

こちらではフルサイズでお楽しみいただけます。
Gamers_4

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ゲーマーズ挿絵その1

 サイトに掲載している小説に、挿絵があったらいいなあと、ずっと思っていたわけですが、ついに、睡眠時間を削りながら、何枚かの挿絵を完成させましたので、お披露目です。
 いずれも、「ゲーマーズ 第一話」の挿絵です。

 まずは、主人公の渉君。
Wataru_3

 そして、渉君のゲームキャラ「アストレイ」です。
Astray

 こんな感じ。後は、これをどうやって載せようかと考え中です。
 ではでは。

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ゲーマーズ第一話初稿

「ゲーマーズ」の第一話の初稿の抜粋です。
興味のある方は、比べてみてください。
設定の変更や、物語の展開の変更で、ちょこちょこと変わっています。
なお、初稿は昨年9月19日の執筆で、タイトルは「現実」、原稿枚数は40枚でした。

「昨日はすごかったな。マジで、あいつを一人で倒しちゃうとは思わなかったぜ」
 桜井進(さくらい すすむ)は、背後から突然肩を叩かれて、ビクリと身を震わせた。その声の主が、友人であるケンちゃんのものだとしって、ほっとする。ケンちゃんこと小倉健児(おぐら けんじ)は、酒屋の次男坊で幼稚園からの知り合いである。こうして登下校のときに出会うことも多くて、そんなときには決まって、ロストイマジンの話で盛り上がるのだ。
「おはよ。いや、ヤバかったよ。あいつのブレスにはさ、《炎への耐性(レジスト・フロム・ファイヤー)》がほとんど効かなかったもん。《竜殺し(スレイ・ドラゴン)》で、けっこうダメージが回ったから勝てたようなもんだよ」
「へー。おれも、もう少し魔法覚えようかな。やっぱ、アストレイみたいになりたいもんなあ」
 そういって健児は熱っぽく進を見つめた。
 二人はオンラインゲーム、ロストイマジンのプレイヤーである。ロストイマジンとは二年ほど前にサービスが開始されたネトワークゲームで、MMORPGのひとつである。世界各地にいる数千人のプレーヤーが同時に一つのサーバに接続し、サーバー内に構築された架空世界の住人に扮して、他のプレーヤーと協力、あるいは対立しながら、架空世界での生活や冒険を楽しむゲームだ。
 進も健児もロストイマジンの世界にそれぞれの分身を有している。進のそれが勇者アストレイであり、悠人のそれは戦士ヘラクスといった。昨夜、アストレイと闇のドラゴンとの決戦を、ヘラクスは遠く取り囲む人垣の中から見ていた。ヘラクスも修練を積んだ戦士で、並のモンスターを相手に後れを取ることはないし、普段はアストレイとともに、世界の最も危険な地域を闊歩し、武勇を轟かせていた。だが、アストレイと比べてしまっては、ヘラクスはその足下にも及ばないということも、また事実なのだ。
「そういや舟木さん、今度のアップデートで魔法を大幅に増やすっていってたよ」
 舟木さんとは、ロストイマジンの中心となる開発者の一人だ。自身もロストイマジンのゲームに参加しているのだが、進とはゲーム中で親しくなり、もう半年くらい前からメールでやりとりをしている仲であった。
「《闇世界の古代竜(ダークエンシェントドラゴン)》も、正規版ではもう少し強くするみたいだし。正規版じゃあ、昨日みたいに一人で勝つのは無理かもね。もっと強くならなきゃ」
「そういや、《世界のカケラ(ピース・オブ・ザ・ワールド)》はいくつになった?」
 健児は、進の鞄で揺れている小さなアクセサリーを見つめながらいった。水晶のカケラのようなものが鉄のチェーンに繋げられているそれは、ロストイマジンの世界に登場する最重要アイテムをどことなく想像させるものだった。
 《世界のカケラ(ピース・オブ・ザ・ワールド)》――それは、世界を支配する力を持った水晶が、世界創造の直後に十のカケラととなって飛び散ったとされるアイテムで、所持する者に絶大な力を与えるといわれていた。まだ、六つしかその存在が確認されていないのだが、勇者アストレイはすでに、そのうちの四つを所持していた。
「四つのままだよ。後のカケラがどこにあるのか、なんの情報もないんだもん。舟木さんも教えてくれないしさ」
「舟木さんに聞くのはズルイだろ」
 健児が目をつりあげた。
「まあ、教えてくれるとは思ってなかったけどね」
 進は悪びれもせずにいった。鞄に提げた水晶のカケラを手にとってみる。指先にのるくらいの小さなそれは、特別きれいな石でもなかったが、なぜだか小さな頃からのお気に入りであった。とはいっても、いつもそうして持ち歩いていたわけではない。ある日、家に遊びに来た健児が、机の引き出しの奥で眠っていたそれを見つけて、「《世界のカケラ(ピース・オブ・ザ・ワールド)》って、こんな感じかなあ」とつぶやいたのがきっかけで、そう言われてみれば進も、それがなにやら特別なものに思えてきて、今ではこうして持ち歩くようになったのだ。そうしてみれば、その水晶によって、勇者アストレイと自分が繋がっているような、そんな気がしてまんざらではなかった。
「進のアストレイはさあ、なんていうか、もう神さまみたいなもんだよなあ」
 健児はそういって嘆息した。
「神さまってことはないよ」
 進はまんざらでもない顔で否定した。
「いや、だって進が強すぎるから、あのドラゴンももっと強くなるってぐらいだろ?」
 健児は腕を大きく振り回しながらいった。
 オンラインゲームでは、プレイヤーが飽きることなくゲームを続けられるように、ゲーム世界に新たな要素が追加されることがある。それは、新たな魔法であったり、新たな武器であったり、新たな冒険の舞台であったりするのだが、ロストイマジンにおいても、そうした大幅アップデートが間近であると運営会社からアナウンスがされていたところだ。そして、昨夜アストレイが戦った、あの《闇世界の古代竜(ダークエンシェントドラゴン)》こそが、次回のアップデートの目玉のひとつだったのである。
 進の操るアストレイはロストイマジンの世界で最も強力なキャラクターであった。そのアストレイにはしばしば、運営会社から舟木さんを通じて、新たなアップデートに関するバランス調整への協力依頼が寄せられていた。
 例えば今回の《闇世界の古代竜(ダークエンシェントドラゴン)》がそうである。アップデートによって、最強のモンスターとして配置されるはずだったこの闇のドラゴンが、実際にどの程度の強さであるのか、そのお披露目もかねて、ひとつのイベントが企画され、実行された。すなわち、最強のキャラクターと最強のモンスターの一騎打ちである。
 結果、アストレイは苦戦したものの、単身ドラゴンをうち破ることに成功した。その戦いの一部始終をつぶさに解析した運営側としては、闇のドラゴンをもう少し強力なモンスターに書き換えることを検討したというのである。他にも、こうして《進=アストレイ》がゲーム世界の変更を迫った例は数多い。アストレイが、世界を変える勇者といわれる由縁であった。

 昨夜は最高だった。
 《闇世界の古代竜(ダークエンシェントドラゴン)》の巨体が音を立てて倒れると同時に、ギャラリーたちから歓声があがった。歓声、とはいっても現実に声が聞こえるわけではなく、ディスプレイ上に吹き出しの形でメッセージが表示されるのであるが、画面がそれら激闘を讃えるメッセージで覆われて収まらない様子は、進にとってはまさに、鳴り響く歓声に違いなかった。
 あの高揚感。あの興奮。あの充足感。
 それに比べれば、現実はあまりにも退屈だった。ロストイマジンの世界では、あんなにも輝いていたというのに、この現実では、道ばたに捨てられた石ころと自分にどれほどの差がるのかも分からなくなってしまう。
 窓枠に切り取られた空をぼんやりとみつめた。雲がゆっくりと流れていた。黒板をチョークが叩くコツコツという音。ノートを走るシャープペンの音。何もかもが単調で、意味のないことに思えた。
 いつから、こんなにも毎日が退屈になってしまったのか。そのきっかけは思い出せそうにはなかったが、幼い頃には確かに違っていたはずであった。絶対無敵の感覚、とでもいうのだろうか。自分ならだいじょうぶ。自分ならできる。自分だけはちがう。意識してはいないまでも、そんな漠然とした自信のようなものがどこか心の奥底にあって、毎日が希望とか安心とか喜びで満たされていた。
 テレビのヒーローに憧れたときも、世界の平和を守るカラフルなヒーローたちと自分との差は、偶然にも変身セットを手に入れることができたかどうかの違いでしかなく、もしも自分がそうした偶然に出会ったならば、いつでもヒーローになれるのだと信じていた。そのために勇気が必要ならいくらでも沸いてくるし、厳しい特訓が必要なら喜んで耐えれるはずだった。なにより、万が一今はできないとしても、大人になればできるはずなのだと。
 だけどもそんな感覚は、背丈が少しずつ伸びて、遠くまで世界を見渡せるようになると同時に薄らいでいった。屋根と壁に覆われた小さな建物の外にも無数の人たちが暮らしていて、ニコニコとなんでも聞き入れてくれる大人たちとは別に、公園の砂場やブランコを争って、全力で戦わなければならない相手もいるのだと知った。そんなケンカに負けたのが、最初の挫折だったのかもしれない。初恋の女の子は振り向いてくれなかったし、かけっこではいつもビリだった。テストはマルよりもバツの数が多くて、そのせいで、将来の夢から消えていった職業は多い。
 ともかく、成長に合わせるようにして、だんだんと「できないこと」ばかりが増えてきて、自分が世界の中心にいるわけでないことや、むしろ自分は世界の片隅でひっそりと息をしているのだということを、さんざんに思い知らされてきたのだ。
 進は板書用のノートの下に隠していたもう一冊のノートを取りだし、そこに勇者アストレイの姿を描き始めた。たくましい腕も丸太のような脚も自分にはないものだ。だが、この勇者アストレイこそが自分の分身なのである。ハートはひとつなのだ。右手に両刃の剣を持たせる。その重みに、上腕の筋肉が盛り上がるだろう。ロストイマジンの切り裂くような風は、後ろでまとめた髪をたなびかせて、アストレイはかすかに目を細める。だが、その鋭い瞳は、キッと獲物を睨みつけてはなさいのだ。
 進の手が忙しく行き来するたびに、ノートの上にアストレイの姿が刻みこまれていった。こうしてまた、アストレイの似姿やその冒険の物語がいくつも書き連ねられているノートに、アストレイの新たな勇姿が加わわった。
  
「なあ進、さっきの時間も書いてたんだろ?」
 休み時間になると、そそくさと健児がやってきて、当然の権利のように進のノートに手を伸ばした。
「ちょっとだけだよ。でも、新しい冒険も考えたんだ」
 進は几帳面な字で書かれたノート二頁分の小説を健児に見せた。
「アストレイが海底に沈んだ都市に行って古代の秘宝を見つけるんだ。海エルフたちから祝福を受けて、海の中でも普通に息ができるようになる」
「続きは?」
 ざっと目を走らせた健児は、悪くない、といった感じで微笑む。
「次の時間に書くよ。待ってて」
 進はいった。
「でもさ、進はマジでロストイマジンが好きなんだなあ。おれも好きだけどさ、進には負けるって感じ。やっぱ、そんぐらいじゃないと、アストレイみたいにはなれないのかあ」
 健児は進を、見慣れぬ異国の人間を見るかのように、まじまじと見つめた。
「なんでだろう? 他のゲームにはそんなにハマんなかったけど、ロストイマジンは違うんだよね。なんていうのかな、昔から想い描いてた世界が、そこにあるって感じなんだ」
 進は自分の言葉を裏づけるようと、鞄から違うノートをとりだした。それはページの角が痛み、表紙が折れたずいぶんと古いものだ。
「もっと昔からのノートもあるんだけどさ、これが小六んときからのノート。まだ、ロストイマジンがリリースされる前なんだけどさ」
 そういって開かれたノートには、やはりアストレイのイラストが描かれていた。続けてめくったページには小説が書かれている。
「アストレイは、ずっと前から考えてたキャラなんだよね。これが、こいつの活躍する小説。でさ、なんていうのかな……」
 進は目を宙に浮かせて、なにやら考え深い表情を作った。
「こうやってオレがずっと考えた世界と、ロストイマジンの世界は全然違うんだけど、でもなんだか似た空気を感じるんだ。始めてロストイマジンの宣伝を見たときに、ああ、この世界になら、アストレイがいてもいいなって、そんなのがビッビッてきてさ、気がつけば直ぐにハマってたんだ」
 健児は、へえ、とあいまいな返事をして首を傾げた。
「ロストイマジンって、なんのことだよ」
 突然、進の肩越しに野太い声が降ってきた。
 進が振り向くよりも早く、バッと突き出された手が進のノートをひったくっていく。
「あ、だめだよ。返せよ」
 進は椅子をならして立ち上がると、ノートを取り返そうと手を伸ばした。
「いいじゃねえかよ、ちょっと見せろよ」
 そういって鈴木雄太(すずき ゆうた)は、腕の一振りで軽々と進の体を押し飛ばした。雄太の体格は、進よりも頭ひとつ上回っている。
「へへへ、なんだこりゃ。お前、いっつもコソコソとなんか書いてると思ったら、こんなもん書いてたのかよ。はっ、なんだこの、勇者アストレイってのは」
 雄太は声を張り上げた。
「ゲームのキャラクターだよ。もういいだろ。返せよ」
 進は顔を真っ赤にしていった。
 雄太は意に介さずといった調子で、悠々と頁をめくる。さらに進にとっては最悪なことに、この騒ぎを聞きつけて、日頃雄太とつるんでいる小杉良一(こすぎ りょういち)と三川大地(みかわ だいち)たちまでもがやってきた。
「おまえ、ロストイマジンって知ってるか?」
 雄太の言葉に、良一がオンラインゲームだろ、と答える。
「前にちょっとだけやったことあるぜ。よくわかんなくて、すぐにやめたけどな。なんかカルトな人気があるみたいだぜ」
 大地があとを継いだ。
「ほう」と、雄太。
 そうして、ほらよ、とノートを良一に渡す。
「勇者アストレイってのが、こいつのキャラなんだってよ。よく恥ずかしくもなく、こんなもん書けるな、おい。おまえが、勇者ってガラかよってんだ」
 雄太は進に向き直ると、意地の悪い笑みを浮かべた。
「あ、でも、聞いたことあるぜ。アストレイって、ゲームの中じゃかなり有名なキャラクターだったんじゃないかな」
 大地がノートをのぞき込みながらいった。
「知ったことかよ。おい、こいつの書いた内容を、みんなに聞かせてやれよ」
 雄太がいった。
「やめろよ」
 進がノートを持つ良一に飛びかかる。だが、すかさず雄太が進を後ろから羽交い締めにし、強引に引きずり戻した。
「へええ。よくもまあ、こんなこと書けるもんだなあ」
 良一はそういって、コホンと咳払いをすると、ノートの一節を高らかに読み始めた。すでにこの騒動に何ごとかと気をやっていた生徒たちは、哀れみと好奇心を半々に、そんな様子を見守っている。
「黙って聞いてろよ。へっ、勇者アストレイの背後から巨大なトロールが襲いかかる。だが、アストレイは振り向きざまのひとなぎで、トロールの首を切り落とした、とさ。はあ、強いね、アストレイくんは。どこかのだれかさんとは違って」
 進は必死に手足を振って抵抗するが、雄太にギリギリと締めつけられて、息をするのも辛いというありさまだ。ただその口の端から、恨めしげな声をもらすばかりだった。
「――丘小人たちの感謝の言葉を背に、勇者アストレイは再び旅に出た。お終い、だとさ。なんだこりゃ。まるでガキの絵本じゃねえか。おい、もういこうぜ。オタククサイのが移っちまうぜ」
 そういって良一は、進の足下にノートを投げてよこした。パラパラとめくれたそれは、アストレイのイラストを上にして静止した。
 雄太は、ノートをとろうと前のめりになる進を突き飛ばした。進は自分の席に突っこんで、ガタガタと音を立てて尻餅をついた。その様子に、意地の悪い笑い声が降ってくる。それでもすかさず、ノートを取りもどそうと立ち上がった。だが、進の手が届くよりも早く、雄太の足がノートを踏みつけていった。
 グニャリ、と歪んで裂けた頁。足跡を残して、雄太が立ち去っていく。
 進の目に凶暴な光りが宿った。さきほどぶちかった衝撃で床に落ちていた鞄を拾うと、無防備な雄太の背中に力一杯叩きつける。今度は、雄大が頭から机に突っこんで、だらしなく寝ころぶ番であった。
 だが、進のときと違うのは、どんな笑い声も起きないということだ。教室は、ピリピリとした緊張に一気に音をなくした。
 のそりと雄大が立ち上がる。
「てめえ、なにやってんだ、おら」
 素早く引き返してきた良一が、進のすねを蹴り上げた。
 その痛みに、目の前にいる相手の威圧感に、普段であればたちまち萎える進の勇気も、このときばかりは怒りが燃料となり、いくらでも沸いてくるようであった。
 進にとってなによりも大事なアストレイが、意味もなく侮辱されたのだ。
 進はますます躍起になって鞄を振り回した。そのヒステリックなまでの剣幕に良一も大地も毒気を抜かれる。だが雄太は違った。
 ずいと前に出ると、振り回す進の鞄を受け止め、そのまま力づくでひったくった。
「てめえ、よくもやってくれたじゃねえか」
 雄太の拳が唸り、進の右頬を打ちつけた。
 その衝撃に進は吹き飛ばされ、再び地に這う。
「ちっくしょう、後ろからやりやがって」
 雄太は進と進の鞄を睨みつけた。そうして、痛みでうずくまる進に、その鞄を投げつける。
 ベチッっと渇いた音をたてて、鞄が進の顔面を打った。口の中に血の味が広がる。進のなけなしの勇気も、もはや尽き果てていた。こんな相手にケンカを売ったことを早くも後悔する。
 ほっとけばよかったのだ。笑うがままにさせておけばよかったのだ。
 進は少しでも痛みから逃れようと小さく丸まりながら、己の愚かさを呪った。
「おい、こら。立てよっ!」
 雄大の怒声が響き、直後に足が飛んでくる。進は目の前に落ちていた鞄を盾に、どうにかそれをやりすごした。だが、雄大のゴツゴツとした手がその鞄をもぎとろうとする。進は身を振って抵抗し、雄大の手は目標を失って空気をつかんだ。しかし、それだけではない。その指が水晶のアクセサリーに絡まっていたのだ。
 ブチ、っと音を立てて鎖が解けた。
 雄大は手の中に残った水晶のカケラに不審の目を走らせる。そして、すぐにそれを遠くへ放ってしまおうとするが、その瞬間まで無抵抗だった進の目に再び闘志の炎が宿ったのを見て、思い改めた。
「なんだこら。こんなもんがそんなに大事か」
 雄太は鎖を指先でジャラジャラと鳴らしながらすごんだ。
「返せ」
 進の唇が言葉を放とうとする。だが、進の理性がそれを押し留めた。
 相手を刺激してはいけないのだ。
 自分には、このいじめっ子に立ちむかう勇気もなければ、やり過ごす力もない。たった今、身をもってそれを学んだばかりではなかったか。
 進はパクパクと口を動かしたきり、下を向いてうつむいてしまった。雄大はそんな進の様子を満足そうに見つめる。
「答えろよ。聞いてるんだぞ。これが大事か、って」
 雄大がいった。
「別に……」
 進はもごもごと答えた。
「じゃあよ、後ろから襲ってきたワビとしてよ、こいつはもらってもいいな」
 進は無言だった。
「答えろや! てめぇのふっかけたケンカを、これで許してやるっていってんだよっ。どうすんだっ、こら」
 雄大が怒鳴った。
 進はまっ青な顔をして、ただうなずいていた。

 上記原稿に加筆修正した掲載版、「ゲーマーズ 二人の勇者」第一話「リアルな世界」を読んでみたいという方はコチラ

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ゲーマーズ第一話掲載しました。

もう、ずいぶんと長いこと書いている気がします。
「ゲーマーズ」改め「ゲーマーズ 二人の勇者」の第一話を、ようやっと掲載しました。

どこにでもありそうな、主人公が異世界に召喚されちゃう、というお話しです。
一応、この作品ならでは、の仕掛けも考えてはいるのですが、さて皆さんの目にはどう映るのでしょうか。

とりあえずは、第二話をなるべく早く、来月中くらいには、掲載したいと思います。
いよいよ異世界での冒険(?)が始まりますよ。
ヘタレな渉くんは、いったいどんな活躍をしてくれるのでしょうか。
それともしてくれないのでしょうか(おい)。請うご期待!

なお、第一話はコチラに掲載中。

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ぴったり。

 手術中のランプが赤く灯るのは、断固とした拒絶のサインだ。物知り顔の医者たちなどよりも、ずっとその顛末に近しいはずの自分は閉め出され、扉の向こうでなにが起きているのかを知るすべすらない。
 無力さを噛みしめながら、椅子に座り、ときに立ち上がり、人気のない廊下を意味もなく行き来した。かろうじて残った冷静さの欠片が、そんな自分を滑稽に見つめるが、その瞬間にも、とりとめのない不安が次々と芽吹いてくる。つたない知識ととってつけたような理由を総動員して、わたしはそれを、ひとつひとつ引き抜いていく。無論、気休め以上のさしたる意味もない作業。延々と繰り返しながら、結局行きついた先は、どこにいるとも知れぬ名もない神さまに祈ることだった。

 なにに使うものなのだろうか。見慣れぬ器具を手にした人たちが、時折手術室に出入りした。扉が開くたびに慌てて奥をのぞき込むが、意味をなすものはなにも見えない。なにか予期せぬ事態が起きたのかと、全身にまとまりついた不安が泡立つ。忙しく出入りする人たちは、そんなわたしには無関心だ。あるいは彼らにしてみれば、わたしのような反応は、あまりに見慣れているのかも知れない。彼らの通りすぎた背中で、扉は躊躇なく閉じてしまう。そうしてまた、わたしは椅子に腰掛ける。
 
 そんなことを何度も繰り返した後だった。なんの前触れもなく、それは現れた。いや、前触れはあったに違いない。気がつかぬのがおかしいのだ。扉の向こうに爆ぜる声は、耳をすませるまでもなく、たしかに聞こえていたはずなのだ。
 なのにわたしは聞いていなかった。油断していた。いや、半ば眠っていたのかもしれない。さんざん待ち望んでいた瞬間であったにもかかわらず、わたしは見事に虚をつかれた。

 目の前に現れたものを、わたしは呆然と見つめた。ひたすらに泣く、その不思議の塊。想像できなかったわけでも、ましてや見たことがなかったわけでもない。なのにそれは、あまりに小さかった。あまりにも小さくて、ひとつの完全な生命であるということが、なにか途方もない冗談のように思えた。大樹からこぼれたひとしずく。地に落ちれば、はじけて消えてしまう輝き。それがいま、緑の葉の上を滑り、その先端で身をしならせた。大いなる落下に身を委ねた。

 だれもが生きている。その中にあってそれは、だれよりも命を叫んでいるようだった。己が誕生に、なにをそんなに叫ぶのか。その小さな体に宿る命は、あまりにも純粋で、無防備で、まるで加減を知らぬようだった。爆発するような激しさで、さかんに煮え立ち、熱気を放っている。

 わたしには、それが不思議だった。にわかには手を差し出すこともできず、わたしは見つめ続けた。その命の力強さに比べて、その体の、なんと脆弱なことか。そのアンバランスさ。その危うさ。そのもどかしさ。なのにそれが、わたしの心を打った。

 それは体を震わせ続けた。命が波打つのが見えた。その小さな器の縁に飛沫があがった。きらきらと、きらきらと、こぼれそうになりながら、だけれども、その脈動は惜しむことを知らない。次々と舞う飛沫。
 わたしは目を細めた。
 命の滴。
 その柔らかな器。
 赤子の上でそれは、まぶしいようにぴったりと、ひとつに重なっていた。
 過不足のない、完全なひとつの存在として。
 こんなにも、ぴったりと。

 

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