ぴったり。
手術中のランプが赤く灯るのは、断固とした拒絶のサインだ。物知り顔の医者たちなどよりも、ずっとその顛末に近しいはずの自分は閉め出され、扉の向こうでなにが起きているのかを知るすべすらない。
無力さを噛みしめながら、椅子に座り、ときに立ち上がり、人気のない廊下を意味もなく行き来した。かろうじて残った冷静さの欠片が、そんな自分を滑稽に見つめるが、その瞬間にも、とりとめのない不安が次々と芽吹いてくる。つたない知識ととってつけたような理由を総動員して、わたしはそれを、ひとつひとつ引き抜いていく。無論、気休め以上のさしたる意味もない作業。延々と繰り返しながら、結局行きついた先は、どこにいるとも知れぬ名もない神さまに祈ることだった。
なにに使うものなのだろうか。見慣れぬ器具を手にした人たちが、時折手術室に出入りした。扉が開くたびに慌てて奥をのぞき込むが、意味をなすものはなにも見えない。なにか予期せぬ事態が起きたのかと、全身にまとまりついた不安が泡立つ。忙しく出入りする人たちは、そんなわたしには無関心だ。あるいは彼らにしてみれば、わたしのような反応は、あまりに見慣れているのかも知れない。彼らの通りすぎた背中で、扉は躊躇なく閉じてしまう。そうしてまた、わたしは椅子に腰掛ける。
そんなことを何度も繰り返した後だった。なんの前触れもなく、それは現れた。いや、前触れはあったに違いない。気がつかぬのがおかしいのだ。扉の向こうに爆ぜる声は、耳をすませるまでもなく、たしかに聞こえていたはずなのだ。
なのにわたしは聞いていなかった。油断していた。いや、半ば眠っていたのかもしれない。さんざん待ち望んでいた瞬間であったにもかかわらず、わたしは見事に虚をつかれた。
目の前に現れたものを、わたしは呆然と見つめた。ひたすらに泣く、その不思議の塊。想像できなかったわけでも、ましてや見たことがなかったわけでもない。なのにそれは、あまりに小さかった。あまりにも小さくて、ひとつの完全な生命であるということが、なにか途方もない冗談のように思えた。大樹からこぼれたひとしずく。地に落ちれば、はじけて消えてしまう輝き。それがいま、緑の葉の上を滑り、その先端で身をしならせた。大いなる落下に身を委ねた。
だれもが生きている。その中にあってそれは、だれよりも命を叫んでいるようだった。己が誕生に、なにをそんなに叫ぶのか。その小さな体に宿る命は、あまりにも純粋で、無防備で、まるで加減を知らぬようだった。爆発するような激しさで、さかんに煮え立ち、熱気を放っている。
わたしには、それが不思議だった。にわかには手を差し出すこともできず、わたしは見つめ続けた。その命の力強さに比べて、その体の、なんと脆弱なことか。そのアンバランスさ。その危うさ。そのもどかしさ。なのにそれが、わたしの心を打った。
それは体を震わせ続けた。命が波打つのが見えた。その小さな器の縁に飛沫があがった。きらきらと、きらきらと、こぼれそうになりながら、だけれども、その脈動は惜しむことを知らない。次々と舞う飛沫。
わたしは目を細めた。
命の滴。
その柔らかな器。
赤子の上でそれは、まぶしいようにぴったりと、ひとつに重なっていた。
過不足のない、完全なひとつの存在として。
こんなにも、ぴったりと。
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