子どものための物語
子どものための物語というものは、難しい。
わたしたちはだれだって、子どものころには、人生の重みを引きずらないで生きていた。人生の幸福のもっとも良い分け前を、まずは受け取っていたのだ。それなのに、大人たちは、この幸福で豊かな子どもの時間を、いつだって踏みにじり、圧迫しようとしてきた。自由な想像力の頭をうちつけ、窮屈な型にはめ、自分たちはといえば、なにかというと頭の良いふりをして、物事の本質をごまかしてばかりであった。
そんな大人たちが、子どもたちのためにどんな物語を書けるというのか。大人たちの世界は複雑すぎる。問題が多すぎる。生命力が希薄すぎる。そんな世界から生まれた、一体どんな物語に、子どものための物語を名乗る資格があるというのだろうか。
お説教なら論外。遊びということの力強さを忘れていては魅力がない。知識や教養が世の中ではなによりも役に立つだなんて、そんなまやかしも必要ない。なぜって、子どもたちは物事の本質に迫りたいのだ。直感やひらめきにこそ興奮するのだ。そしてなによりも、子どもであることを楽しんでいたいのだ。
だからこそ、子どものための本には、簡素な美しさが必要だ。小難しい理屈ではなく、直接その心に働きかけ、ひき起こされた魂のときめきが一生続くような、力強さが必要なのだ。
ああ、それは要するに、芸術の本質ということで、そんな物語を書こうとすれば難しいのも当然なのか。
わたしは、子どものための物語を書いてみたいのである。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


最近のコメント